おばあさんと私 ~いつまでも女子~
前置きしておきます。オチはございません。ただの呟き、日常であります。 その上でご覧下さい(ㅎ.ㅎ )
それはある昼下がりのことでした。その日は平日でしたが、私は有給という正当な権利、されどここぞという時のアイテムを使い、お休みをいただきました。
私の住む場所は、とある地方の田舎町。朝はのんびりとおうちで過ごしましたが、せっかくの休み。午後からは買い物に出かけようと、最寄りの駅まで向かいました。
白い息を吐きながら少し待っていると、電車がホームに滑りこんできます。両肩をあげて電車の中に入ると、車内は暖かく、窓の外からも暖かい日差しが差し込みます。そう人は多くありませんが、空席が目立つほどでもありません。入ってすぐ近くに、空席を見つけました。2人がけの席が向かい合っている形で、私に背を向けた通路側には男子高生がどでーんと座っています。
私は、男子高生とは反対側の窓際に、颯爽と陣取りました。今頃皆は働いているという背徳感がむしろ快くもあり、かばんから読んでいる本を取り出し、ページを開きました。本の世界に入り込もうとしたその時。
突如私の目の前と左隣におばあさんがとすんと腰掛けました。それは、突如という言葉がしっくりくるほど、機敏な動きでありました。
目の前のおばあさん(梅さんとしましょう)が、リュックと一緒に持っているお菓子のたくさんつまったビニール袋も大変気になったのですが、本に意識を戻すことにします。
ふと、隣のおばあさん(ツルさんにしましょうか)が自分のかばんを座席に置きました。私とツルさんを仕切るように置いたわけですが、これまたかばんが私に当たる...!
(ツルさん、パーソナルスペース...!)
少し身をよじりながら本に集中しようとすると、ツルさん。
「なんか喉乾いたわぁー」
飲み物を飲み始めた様子。いや、いいんです。飲んでくれても良いのですが。何故か私の横に置かれたツルさんのかばん なてっぺんから、つぅと雫が垂れてきます。着地点は私の太もも。
思わず大きく身をよじると、ツルさんもそれに気付いたのか、身をよじり返してきました。ちがうんです。ツルさんじゃないんです。あなたのかばんです...!
私がひっそり格闘してる間に、「ミカンでも食べようかね」と梅さん、リュックをゴソゴソしはじめます。お菓子がたくさん詰められたビニール袋を握りしめながら。
なんかもう、本を読むどころではありません。
「あ、これこれ」。梅さんが取り出したのは、ミカンではありません。小さな紙袋です。
「これお土産に買ったのよ」
「へぇ、見せて見せて」 とツルさん。
出てきたのはストラップが2つ。 「ついついお店の人にのせられてね」と苦笑いの梅さんです。
「どれどれ」。手に取ったツルさんはしげしげとストラップを見て「かわいいじゃないの」。
そして、ストラップを梅さんに返しながら「このお土産はね、肩がこらなくていいわよ」と大真面目に一言。
梅さんも真面目に「ほんとね。肩がこるのはいけん」と返します。
(歳を重ねると、お土産も値段だけでなくサイズまでbigになるのかしら)
私も大真面目に考察しました。
「最近はこれにしてね」今度は梅さんがスマホを取り出します。
「今日の写真も、ほら」とツルさんにスマホを手渡します。
「うわぁーー、こんなのよく使えるねぇー」。ツルさんは受け取って写真を見ながら「最近新しいのに変えちゃったのよねぇ。私もこれにすれば良かったかねぇ。」
どうやら観光していたようで、キャッキャ写真を見る姿は、女子そのものです。
本に戻ろうとした私を、ツルさんの一声が遮ります。 「最近、色んな写真をまとめててねぇ。もうたくたんたまってて」
「あぁ、たまるよねぇ」
「もう多いのよ。やってもやってもあるの。そうねぇ、昔は色んなものも集めててねぇ」
ツルさんは話がとびます。それでも続けます。
「色んなもんが流行ったでしょう。私が娘時代にはこけしでねぇ。いっぱい集めたけど、今はもうほとんど残ってないねぇ。こんな小さいのを何個か玄関に置いて」
(へぇ...こけしって流行った時代が、あったんだ...)
いつの間にか興味深く聞いている私でした。
気付けばもう、私の降りる駅。 おばあさんになっても、女子高生でも、何だかんだ女性の話す内容って変わらないんだなぁ。そう思いました。
本、2ページしか読めませんでした。